エリーアンチエイジング研究室

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│研究日誌 第1日目 エリー記す
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 標題:新人面接 老化現象とは何だと考えますか?
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 今日は新しい研究員の面接日です。
 当研究室はまだできたばかりで室員は私しかいません。
 どのような方がいらっしゃるのかとても楽しみです。

 あ、そろそろ約束の時間です……。 

 ――こんこん
 
 扉を叩くことが聞こえました。来たようですね。
 
 「どうぞお入り下さい。」

 「失礼しますっ!新規研究員の面接に参りました、ハルと申します!」

 「お待ちしておりました。私は当研究室室長のエリーです。どうぞこちらへ
 おかけ下さい。」

 いらした方は20代前半の青年です。瞳に活力が満ちているのが印象的です。
 ちょっと頭に寝癖がついてますね。まだ卸したてのような紺色のリクルート
 スーツが良く似合ってます。なんだが可愛らしいです。ふふっ。

 「飲み物をお出ししましょう。紅茶になさいますか?それともコーヒーの方
 がお好みですか?」

 「ありがとうございます。それでは紅茶をお願いします。」

 ――このあと他愛無い雑談がありましたけど、省略しますね。

 「ではハルさん、面接に入りましょう。当研究室がアンチエイジングを研究
 していることはご存知だと思います。どうして当研究室での研究を希望した
 のですか?」

 「はい。僕は長生きして、楽しいことをたくさんしたいんです。友達と遊ん
 だり、旅をして色々なところ見て回ったり。彼女とのデートは最高ですね。
 テレビゲームもします。映画もよく見ます。最近はプラモデルを作るんです
 よ。愛車のデミオでのドライブは爽快で、日課みたいなものです。サッカー
 は見るのもプレイするのも大好きで、それから……

 ――10分経過

 ……という感じのきれいな貝殻集めてます。あと子猫とじゃれあったり。で
 も人生は短くて、とてもじゃありませんが僕のやりたいことの一万分の一も
 できません。なので長生きできる方法を見つけたくて、エリー研究室での研
 究を希望しました。お願いです!先生のもとで研究させて下さい!長生きし
 たいんです!とりあえず一億歳くらいまで!」

 「一億歳ですか……それにずいぶんと多趣味なんですね……。」

 「そうですか?でも僕は僕の知らない楽しいことがまだまだあるんじゃ無い
 かと思うと、なんだかとっても残念な気分になりますよ。エリー先生、何か
 楽しいことを知っていたら教えて下さい。」

 「それはおいおいと言うことで。とりあえず研究への熱意は分かりました。
 では次に老化現象はなぜ起きるのかについて、あなたがどのように考えてい
 るか教えて頂けますか?」

 「はい。それでは僕の考えを述べる前に、現在提唱されている老化の学説を
 述べたいと思います。老化の学説は大きく二つに分類されます。

 一つは老化は生命に組み込まれたプログラムの一つだというプログラム説(
 =遺伝因子説)。

 もう一つは環境から受けたダメージが体に蓄積するために老化するのだとい
 う環境因子説(=遺伝外因子説)です。

 ここからは僕の考えですけど、生命は子孫をよりよく残す方法を模索して進
 化してきました。ヒトの場合に子孫を残すと言うと、子供を生んでその子が
 一人立ちするところまでを指すと思います。

 単純に考えて2O歳で子供を生んで、その子の一人立ちが同じく20歳だとしま
 す。するとヒトは仕事をしたり、子育てをしたりできるくらいに元気な体を
 40歳まで維持できるシステムを持っていれば良いわけです。

 その後の人生は種という観点から見るとおまけみたいなものです。そして40
 歳以降の体の維持は、"40歳まで確実に生きるためのシステム"を使って行な
 っているのではないでしょうか。

 例えばテレビは耐用年数が10年くらいらしいですけど、10年使えればそのテ
 レビは役割を十分果たしたことになります。それ以降使えたとしても、それ
 は"10年確実に使用できるシステム"が稼動し続けているからです。

 テレビは無茶な使い方をすれば10年かそれ以下でポンコツになり、逆に点検
 や修理をしながら大事に使えば10年以上使える。

 同じようにヒトも病気、怪我、タバコなど体を傷つけることを繰り返せば寿
 命が縮む、つまり老化が促され、

 逆に適度な運動、過不足ない食事、ストレスの無い生活など体を労わる生活
 を続ければ寿命も延びる、つまり老化が抑制されるのではないかと考えてい
 ます。

 僕の考えをまとめると、

 『生命は子孫を残すのに十分な寿命を遺伝子にプログラムされており、加え
 て環境も寿命に影響を与える』

 と言ったところです。二つの学説を混ぜたような感じですね。」


 「なるほど。よく勉強していますね。それから自分の考えをしっかり持って
 いるところはすばらしいです。」

 「わぁ、嬉しいです!エリー先生にそんな風に言ってもらえるなんて光栄で
 す!」

 なんて反応が可愛い子でしょう。彼のこと気に入ってしまいました。

 「ふふっ。少し休憩にしましょうか。新しい紅茶とお菓子を出しますね。」


 ――休憩後に質疑応答を繰り返し、結局ハル君を採用することにしました。
 
 採用を伝えた時の彼の嬉しがる顔と言ったら……写真に撮って飾りたいくら
 い可愛かったです。

 それはさておき、彼は元気とやる気に満ち溢れているので、これからもっと
 学んで経験を積めばきっと良い研究者になってくれると思います。

 さあ、明日からハル君と二人でがんばっていきましょう。



│備考欄 (今日の要点)
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 二つの老化学説

  プログラム説(=遺伝因子説)
   └老化は生命に組み込まれたプログラムの一つだという説

  環境因子説(=遺伝外因子説)
   └環境から受けたダメージが体に蓄積するために老化するという説





●参考文献
 
 老化学説:老年医学テキスト 改訂第3版、P.11、日本老年医学会編、メジカ
      ルビュー社(2008)

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