エリーアンチエイジング研究室

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│研究日誌 第14日目 エリー記す
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 標題:老化には多くの因子が関係しています。
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 昨日は知り合いの研究者から、年老いたマウス(ハツカネズミ)をもらいまし
 た。

 「エリー先生、このおじいちゃんマウスたちって、みんな同じ遺伝子持って
 るんですよね。つまりはクローンってことですか。」

 「いいえ、ハル君。正確にはクローンではありませんよ。クローンは完全に
 遺伝子が同じ場合を指しますが、このマウスたちは近親交配を繰り返して作
 り出されたマウスです。なので遺伝子上はほとんど同一と言っても問題あり
 ませんが、いくつかの遺伝子にはまだ違いがあるはずです。こういうマウス
 はクローンとは別に"近交系マウス"と言います。」

 「近交系ですか。いずれにせよ遺伝子上はほぼ同じなんですね。確かこのマ
 ウスは飼育環境も餌も同じでしたよね。となると老化の仕方もやはり同じな
 んでしょうか。」

 「それはとても重要な問題ですね。ハル君はどう思いますか?」

 「うーん…みんな一様に元気がないですし、毛並みも悪いです。太っている
 のとそうでないのがいる位しか違いはなさそうですけど……昨日エリー先生
 は太っていると血管の老化が加速されるっておっしゃってましたよね。とい
 うことは老化の仕方は同じ遺伝子でも違うのだと思います。」

 「半分正解、といったところでしょうか。もっと詳しくこのマウスを解析す
 れば、組織や生理機能に個体ごとに大きく違いがあることが分かるでしょう
 。例えばキラーT細胞という白血球の一種があります。この細胞は体を病原
 菌やウィルスから守る免疫機能の中で重要な役割を持ちますが、年老いると
 個体ごとにその活性が大きく異なるという報告があります。場合によっては
 100倍くらい違います。」

 「遺伝子も生育環境も同じなのに、どうしてそんなに違いが出るんでしょう
 か?」

 「そうですね。答えになっているかは分かりませんが、さまざまな生理機能
 のパラメータは若齢では個体差が少ないです。その差は加齢に伴いどんどん
 大きくなっていきます。老化は多くの因子が関わっている現象なので、例え
 遺伝子や環境が同じでも、ちょっとしたことの積み重ねがこうした個体差と
 なって現れてくるのかもしれません。たとえば、他のマウスよりほんの少し
 食べ過ぎた、反対に少し少なかった、睡眠時間がほんの少し短かった、風邪
 をひいてしまった、などです。」

 「そんなことまで影響してしまうものなんですか?」

 「今までの研究結果を見る限り、コントロールできないくらいの小さな違い
 が高齢では大きな差となって現れることは確かなようです。」

 「うーん……老化は奥が深いですね。まだまだ分からないことだらけです。
 」

 だからこそ、私たちは研究しているんですよ、ハル君。老化の全容が分かっ
 て、老化をコントロールできるようになる日を目指してがんばりましょうね
 。
 


│備考欄 (今日の要点)
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 老化には多くの因子が関わっており、ささやかな違いの積み重ねが高齢で大
 きな差となって現れる。

 老化の全容はいまだ解明されていない。


●参考文献 

 年齢と生理機能のバラツキ:老年医学テキスト 改訂第3版、P.17、日本老年
 医学会編、メジカルビュー社(2008)

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