エリーアンチエイジング研究室

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│研究日誌 第20日目 エリー記す
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 標題:遺伝性早老症が示すものは
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 「ハル君、遺伝性の早老症というのはご存知ですか?」

 「えっ……そうろう症ですか?」

 「はい。」

 「えっと……初めて聞きました。そうですか。遺伝性のそうろう症なんてあ
 るんですね。かわいそうに……。」

 「確かに辛い病気です。治療方法もまだありません。」

 「そうですか……同じ男として、僕はなんだか涙が出てきました。早く治療
 方法が見つかるといいですね。ちなみに僕は"そうろう"ではありません!」

 「は?」

 「いえ、つまり僕は十分に彼女を喜ばせることができると言ったのです。」

 「……ハル君、あなたは勘違いをしています。」

 「え、勘違いですか?エリー先生、それは早くても女性を喜ばせることがで
 きるという意味ですか?」

 「"そこ"ではありません。私が言ったのは"早く老いる"の早老症です。"早
 く漏れる"の早漏症ではありません。」

 「うぐっ……あははっ、やだなーエリー先生、ちょっとしたジョークですよ
 !あははっ。」

 「ハル君、別に誤魔化さなくても良いですよ。確かに読みは一緒ですからね
 。そういうこともあるでしょう。それにもし本当にジョークだとしたらそっ
 ちの方が余程問題です。あまりに不謹慎ですからね。」

 「……おっしゃる通りです。勘違いしました。あぁ、恥ずかしいです。」

 「ふふっ。まあ私も面白いことが聞けたので、あまり気にしないで下さい。
 」

 「それこそ気にしますよ〜。でも早くないのは本当です!」

 「もう、それは分かりましたから、本題に戻りましょう。早老症はその名の
 通り、普通のヒトよりも早く老化の症状が出てしまう病気です。」

 「はい。僕も聞いたことはあります。ウェルナー症候群って言うんですよね
 ?」

 「その通りです。ですが他にも早老症はあるんですよ。代表的な古典的早老
 症としては…

 ○ ウェルナー症候群

 ○ ハッチンソン-ギルフォード症候群

 ○ コケイン症候群

 などが挙げられます。これらは主に顔貌、全身像を中心とした臨床所見から
 老化が早まっているように見えたので早老症と呼ばれました。」

 「3つもあるのですか。でも古典的ということは、古典的ではない早老症も
 あるわけですよね?」

 「あります。ハル君も知っている有名な病気も早老症に分類されていますよ
 。」

 「なんでしょう?」

 「アルツハイマー病、高脂血漿、高血圧、糖尿病などの生活習慣病です。こ
 れらの疾患の特に遺伝性の場合を、遺伝性の早老症に分類しています。なぜ
 なら遺伝性の場合は、普通なら発症するはずが無い"若いうちから"これらの
 疾患を発症してしまうからです。」

 「なるほど。確かにアルツハイマー病とかは高齢になると罹患しやすい疾患
 ですものね。その症状が若いときに出たら、ある意味老化が早まっているよ
 うなものですよね。」

 「そういうことです。ところで古典的早老症の原因は何か、知っていますか
 ?」

 「確か、生命の設計図であるDNAに傷ができたときに、修復するタンパク質
 が上手く働かないと聞いた覚えがありますが……」

 「そうですね。ウェルナー症候群の場合は"ヘリケース"というタンパク質を
 コードしている遺伝子に変異が入っていることが原因とされています。通常
 DNAは二重らせん構造をしていますが、ヘリケースはこの二重らせん構造を
 解きほぐして1本鎖にするタンパク質です。そしてヘリケースは、
 
 DNAの複製
 DNAの修復
 DNAの組み換え
 転写(DNAからmRNAが作られる過程)
 翻訳(mRNAからタンパク質が作られる過程)
 スプライシング(mRNAが再構成される過程)

 といった生命の基本現象に幅広く関わっていることが知られています。

 またハッチンソン-ギルフォード症候群の場合も、その原因となるタンパク
 質はDNAが凝集した染色体の安定化や、細胞が分裂する時に起こる染色体の
 分離に重要な働きをするものです。このタンパク質は"ラミンA"と呼ばれる
 のですが、ハッチンソン-ギルフォード症候群の患者ではラミンAをコードし
 ている遺伝子に変異が入っているのです。」

 「つまり、ウェルナー症候群もハッチンソン-ギルフォード症候群もDNAの保
 存に異常があると考えていいんですか?」

 「そういう解釈でも間違ってはいないです。」

 「エリー先生、それならDNAの保存能力をもっと高められれば、逆に老化は
 遅くなることはないのでしょうか?」

 「それは分かりません。でも可能性はありますね。いずれにしろ、早老症に
 ついてよく知ることは、老化の本質について知ることでもあるはずです。ア
 ンチエイジング研究を志すなら、早老症についてもしっかり勉強していきま
 しょうね。」

 「はい!勉強します!」



│備考欄 (今日の要点)
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 古典的な遺伝性早老症はDNAの保存システムがうまく働かない

 DNAの保存システムの能力を高められれば、老化を遅らせることができるか
 もしれない


●参考文献
 遺伝性早老症:老年医学テキスト 改訂第3版、P.21-23、日本老年医学会編
 、メジカルビュー社(2008)


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