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│研究日誌 第22日目 エリー記す
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標題:寿命が短い動物の特徴とは
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「エリー先生、動物の最大寿命って種によって随分違いますよね。マウス
(ハツカネズミ)なんかは2-3年くらいで、ゾウだと70年は生きるらしいじゃ
ないですか。ようするに小さい動物ほど短命で、大きな動物ほど長命ってこ
とですよね?」
「傾向としては間違いでは無いですが、それだとゾウはヒトより長生きする
ことになりますよ?120歳以上生きているヒトもいますからね。」
「あ、そうでした。」
「大きさよりも寿命と相関が高いと言われている指標が他にあります。」
「そうなんですか?それはなんです?」
「それは体重あたりの食べる量です。体重あたりのエネルギー消費量とも言
えます。この量が大きい動物ほど寿命が短い傾向にあります。」
「えっと、つまり小さい体なのにいっぱい食べる動物ほど短命で、大きな体
なのに少ししか食べない動物ほどは長命ってことですか?」
「そういうことです。簡単な式を作ると、
食べる量 ÷ 体重 = 体重あたりエネルギー消費量
ということになりますね。この値が大きいほど短命です。」
「なるほど。ちょっと待ってください。計算してみます。えーと、なぜかこ
こにある動物園のパンフレットによると、大人のアフリカゾウの場合、体重
は 6,000 kg くらいで、1日に 300 kg くらい草や木を食べると、ふむふむ
。ということは体重あたりエネルギー消費量は
300 kg ÷ 6,000 kg = 0.05
ですね。それからマウスの場合は、またまたなぜかここにあるペットマウス
の飼い方読本によると、体重はだいたい 0.04 kg くらいで、一日に体重の
10%くらいの量の餌を推奨……ということは 0.004 kg の餌ですね。ならば
0.004 kg ÷ 0.04 kg = 0.1
ですね。
おお!こうみるとマウスの体重あたりのエネルギー消費量はゾウの2倍です
よ!すごい食べるし、エネルギー消費してるんですね、マウスって!」
「本当ですね。餌の内容が違いますから単純にマウスがゾウの2倍エネルギ
ーを消費しているとは言えないと思いますが、マウスの方がずいぶんと体
重あたりのエネルギー消費量が多いのは確かです。」
「ということは、エリー先生、マウスが短命なのはエネルギーをたくさん消
費するから、それだけ体の負担が大きくて長くは保たないということでしょ
うか?」
「その可能性が大きいです。体の中ではエネルギーを消費するほど活性酸素
が発生します。活性酸素は細胞やDNAを傷つけますが、傷ついた部分は生体
に備わった修復システムによって修復されます。しかしそれにも限界があり
、修復され切れ無い部分が出てきてしまいます。エネルギー消費量が多いと
いうことは、それだけ細胞やDNAに傷がつきやすいということです。そうな
ると当然修復され切れ無い部分も多くなります。その結果、エネルギー消費
量の多い生物は短命になっていると考えられています。」
「やっぱり食べ過ぎは体に悪いんですね。」
「マウスがたくさん食べるのは単に大飯食らいという訳ではなく、体が小さ
い分熱を保持しにくいため、たくさん食べることでエネルギーを消費し、体
温を維持しているという理由もあります。こればっかりは種による特性なの
でどうすることもできない部分ではありますが……」
「なるほど。マウスも生きるために必死に食べているんですね。僕も彼女が
失敗した料理を必死になって食べることがありますよ。食べ残すと悲しい顔
されるもので……。あんな顔をされたら僕は男として誇りを持って生きて行
けないですからね。僕もある意味、生きるために食べてる訳です。なんだか
マウスに共感してしまいますよ!あははっ。」
ハル君の"彼女大好き〜"にもいい加減慣れましたけど、なんだか脱力してし
まいます……。
│備考欄 (今日の要点)
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最大寿命と体重あたりエネルギー消費量には強い相関がある。
●参考文献
最大寿命とエネルギー消費量:石川冬木 編、『老化研究の最前線』、p.18
-20、シュプリンガーフェアラーク東京(2002)
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