エリーアンチエイジング研究室

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│研究日誌 エリー記す
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 第31日目 遺伝子治療の歴史
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 「エリー先生、遺伝子治療できるとしたら、どんな遺伝子を入れたいですか
 ?」

 ハル君ったら本当に唐突に話題を振ってきます。

 「遺伝子治療ですか。そうですね、脂肪の付きにくい遺伝子を入れましょう
 か。」

 「エリー先生にそんなの必要ないじゃ無いですか。よだれが出るくらい良い
 体……じゃなくて、スレンダーでセクシーじゃないですか。」

 「ハル君、今とても下品な表現しませんでしたか?」

 「あははっ。してませんしてません。」

 「ほんとにもう。だいたい今は毎日エクササイズしているからこの体型を維
 持できているんです。努力しているんですよ?」

 「あぁ、そうでしたか。やっぱりエリー先生でもエクササイズしないとぽよ
 ぽよに?」

 「女性は脂肪が付き易いんですよ。私だって例外ではありません。」

 「うーん、ふっくらしたエリー先生も一度見てみたいですね。」

 「勘弁してください。ところでいきなりどうしたんです?遺伝子治療だなん
 て。」

 「いえね、未来のアンチエイジング技術っていうのを考えていたら、遺伝子
 治療は外せないなぁと思いまして。」

 「そうですね。ところでハル君は遺伝子治療の歴史は知ってます?」

 「歴史ですか?えーと……知りません。」

 「歴史は大事ですよ?技術は突然現れるものでは無く、それぞれが歴史を重
 ねて完成するものです。遺伝子治療も例外ではありません。」

 「は!おっしゃる通りです!と言うわけで、遺伝子治療の歴史を教えてくだ
 さい。(ぺこり)」

 「よろしい。では世界で一番初めに行なわれた遺伝子治療についてお話しま
 しょう。」

 「どきどきキラキラ」

 ハル君が妙な擬音語を発しています。

 「世界で一番初めに行なわれた遺伝子治療は、1990年のNIH(アメリカ国立衛
 生研究所)でのことです。対象は先天性免疫不全症候群の患者でした。もっと
 細かく言うと、ADA(アデノシンデアミナーゼ)欠損症という病気で、ADAとい
 う酵素を作ることが出来ず、免疫不全を起こすというものです。ADA患者は
 生まれてからずっと病院のビニールに囲まれた無菌状態のベットで過ごさな
 ければならず、大変な疾患なのです。この時の治療は患者の血液から取り出
 したTリンパ球細胞(白血球の一種)にADAを作る遺伝子を導入し、体内に戻す
 というものでした。その後も他のADA患者に同じような治療は行なわれていま
 す。治療が成功すると免疫を獲得できるので、ビニールの外に出ることが出
 来るようになります。」

 「ADA患者にとってはその遺伝子治療はものすごい希望ですね。」

 「私もそう思います。ちなみにさっき言った方法はリンパ球を体の外に一度
 出して遺伝子を導入し、体に戻すということで ex vivo 法 と呼ばれていま
 す。現在主流になって来ているのは体内に直接遺伝子を打ち込む方法で、in
 vivo 法と呼ばれるものです。in vivo 法はかつては治療目的の細胞以外の
 場所まで遺伝子が注入されてしまう危険性もありましたが、遺伝子を目的の
 細胞まで運んでくれる"ベクター"という物質の研究が進んだことで、安全に
 治療を行なえるようになりました。ベクターには細胞に感染しやすい性質を
 持つウイルスDNAを、増殖機能を失わせた上で使用します。ウイルス以外の核
 酸を用いる研究も進められています。今後はより一層安全で、効率的に遺伝
 子治療が行なえるようになっていくでしょうね。」

 「すごいですね〜。将来的には人体改造に遺伝子治療を使えるようになるか
 も知れませんね!」

 「改造したいんですか?」

 「したいです!老いない体を作るんですよ!レッツアンチエイジング!」

 ハル君は興奮して鼻息が荒くなってます。でも、ハル君のいうように遺伝子
 治療で老化を食い止められるようになる日も来るかもしれませんね。
 



│備考欄 (今日の要点)
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 遺伝子治療は実用化され、さらなる改良を重ねている。

 アンチエイジングに遺伝子治療を用いる日もいずれ来るだろうと考えられる
 。



●参考文献
 遺伝子治療について:三井洋司 著、『不老不死のサイエンス』、p.170-171
 、新潮新書(2006)

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