エリーアンチエイジング研究室

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│研究日誌 エリー記す
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 第33日目 老いると味覚も鈍ります。
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 今はお昼の時間です。ハル君と一緒に研究室の近くにあるゾウゼリアに来て
 います。美味しくて安いイタリアンのお店です。

 え?どうして昼食の時間を日誌に書いているかですか?
 そこは気にしない方向でお願いします。

 ……

 「エリー先生、僕はメニュー決まりました。この"ハンバーグオニオンソー
 ス&照り焼きチキン"にします。」

 「そうですか。私はこの"採りたてきのこのスパゲッティ"と"海藻サラダ"に
 しましょう。」

 「そういえばこうしてエリー先生と外で食事するのって初めてですね。とっ
 ても嬉しいです!」

 「そうでしたか?でも喜んでもらえたのなら良かったです。いつもハル君に
 はがんばってもらってますからね。今日は私がご馳走します。」

 「わぁ、ありがとうございます!謹んでご馳走になります!」

 こんなに喜んでもらえるんだったら、私としてもご馳走する甲斐があるとい
 うものですね。

 「あ、食事で思い出しました。エリー先生、ちょっと聞いてください。僕の
 祖父のことなんですけど。」

 「あぁ、あの元気なお爺さまのことですか。以前お会いしましたね。」

 「いやはや、あの時はお世話になりました。あの後祖父はエリー先生の大フ
 ァンになってしまいましてね。この間エリー先生の写真をあげたら大喜びで
 した。」

 「そうでしたか。それはよかった……ってハル君、私の写真なんていつの間
 に撮ったのですか?」

 「あ、えっと、その……そう!景色です!研究室の周りの景色を撮っていた
 ら偶然エリー先生が写ってたんですよ!隠し撮りなんかしてませんよ!」

 「隠し撮りとか聞いてませんけど……。それで、そのお爺さまがどうかした
 のですか?」

 「あっと、そうでした。その祖父ですが、食事がこれがひどいんですよ。お
 しんこに醤油をつけるは、出てきた味噌汁にさらに味噌入れるわ、酒のつま
 みにお塩なめるわで、もう完全に塩分摂り過ぎです!よくあんな塩辛くして
 食べられるものですよ。注意しても"俺は高血圧で死ぬんだ!"なんていう始
 末です。どうにか止めさせならないものでしょうか。」
 
 「高齢になると味覚の機能も低下してしまいますから、ハル君にとっては過
 剰に塩辛くても、お爺さまにとっては普通の塩辛さなのかもしれません。味
 覚の甘い、酸っぱい、塩辛い、苦い、そしてうまみを感じたり識別する能力
 が低下すれば、同じ味を感じるにはそれぞれを強くする必要がありますから
 ね。特に塩辛さは10倍くらいの濃度でないと若いヒトと同じ塩辛さを感じな
 くなることもあります。」

 「そんなに違ってきてしまうものなのですか。そうすると、僕と同じ味付け
 の食事だと祖父は味の無い食事をすることになってしまうのかな……。」

 「お爺さまの味覚がどの程度低下しているのかはわかりませんが、高齢者の
 食欲不振は実は味覚が低下していることも多いのですよ。食事をしなくなれ
 ば栄養不足になって病気になります。でも塩分摂り過ぎも高血圧や心不全、
 腎機能の低下につながります。」

 「祖父は食事は僕より食べますからね。食欲不振の祖父はちょっと想像でき
 ませんけど、味の無い食事をさせるのも忍び無いですし……。」

 「少しずつ塩分を減らせばいいので?慣れれば薄味でも塩辛さを感じるよう
 になるそうですよ?」

 「そうですか。よし、ではちょっと祖父に話してみますよ!」

 「それがいいと思います。」

 「それで、だめだったらまたエリー先生に説得をお願いしたいんですが……
 」

 「この間行った時、なんだかやたら私に触ってきましたよ?あなたのお爺さ
 ま。また同じことされるのはお断りしたいです。」

 「あぁ、ごめんなさい。一応あの後祖父に強く注意したんですけどね。"あ
 んなきれいな女性だぞ!触らないほうが失礼だろ!ちょっとそこに座れ。女
 性の扱いについて叩きこんでやる!"って逆に2時間説教されました。」

 ハル君の教育に悪いお爺さまですね。まったく。



│備考欄 (今日の要点)
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 高齢者では味覚が低下するため、塩分の摂り過ぎや食欲不振につながる。



●参考文献
 高齢者の味覚:近藤昊・井藤英喜 著、『老化』、p.156、山海堂(2001)

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