戻る
│研究日誌 エリー記す
└───────────────────────────────────
第63日目 ミトコンドリアは老いに関わる?
───────────────────────────────────
「ハル君、今日はミトコンドリアと老化の関係について考えましょう。」
「ミトコンドリアと言えば栄養分と酸素からエネルギーを産生している細胞
内小器官(細胞内にある小さな器官)ですよね。エネルギーを作る時にたくさ
ん活性酸素が出る場所でもあると。」
「そうです。その活性酸素がミトコンドリア自体を傷害するために、ミトコ
ンドリアが機能低下して老化の原因になっているのではないかとも考えられ
ています。これを活性酸素-ミトコンドリア老化説と言いますが、この説の根
拠となったデータを見てみましょう。」
「どんなものがありますか?」
「次のようなものが根拠とされています。
1. 酸素の90%以上がミトコンドリアで代謝される
2. ミトコンドリアにおける活性酸素生成量と各種の動物種の寿命の間には
負の相関がある
3. ミトコンドリア DNA (mt-DNA) は活性酸素生成源の近傍に存在
※ミトコンドリアは独自の DNA を持っています。
4. mt-DNA は情報密度が高い
5. mt-DNA は修復能が低い
6. 加齢に伴って mt-DNA の 8-OHdG が増加する
7. 核のDNAよりも mt-DNA の方が 8-OHdG が多い
8. 加齢に伴って mt-DNA の欠失や変異が増える
9. ミトコンドリア内膜は不飽和脂肪酸に飛んでいる
不飽和脂肪酸は活性酸素によって過酸化など変性されやすい
10. 活性酸素はミトコンドリアの転写を阻害する
以上です。」
「なんだか聞きなれない言葉もありますね。8-OHdG とか。」
「ふふっ、慌てないで。順に説明していきますね。くどくなるかもしれませ
んからそういうところは聞き飛ばしてください。ではいきます。
まずは
1. 酸素の90%以上がミトコンドリアで代謝される
についてです。活性酸素は酸素の代謝によって生じますから、1は活性酸素の
主要な発生源はミトコンドリアだと言いたいわけですね。
次に
2. ミトコンドリアにおける活性酸素生成量と各種の動物種の寿命の間には
負の相関がある
についてです。ミトコンドリアでの活性酸素生成量が多いほど動物種の寿命
は短いという意味ですね。活性酸素をたくさん作るほど損傷が進み、老化が
早まっていると言いたいわけです。
次に
3. ミトコンドリア DNA (mt-DNA) は活性酸素生成源の近傍に存在
についてです。生命は遺伝情報をDNAに刻んでいて、DNAは核という細胞内の
球体の構造物に格納されています。しかしミトコンドリアは細胞内小器官で
あるのに独自に DNA を持っています。これを mt-DNA と略記します。DNAは
活性酸素で傷つきやすいのですが、mt-DNA は活性酸素が作られるすぐ近く
にあるため、非常に損傷を受けやすくなっているのです。mt-DNA が損傷する
とミトコンドリアが正常に機能しなくなります。そのため細胞がダメになり
、それが蓄積することで老化が進むと言いたいわけです。
次に
4. mt-DNA は情報密度が高い
についてです。これも mt-DNA がいかに傷つきやすいかを説明するものです
。核内にあるDNAには意味のない箇所が無数にあり、そのような箇所は損傷
を受けても生命活動には影響を及ぼしません。それに比べ mt-DNA は重要な
DNA配列が密に詰まり、無駄な箇所がとても少なくなっています。つまり mt-
DNAは核内DNAに比べて活性酸素によって重要なDNA配列が損傷する確率が高い
のというわけです。
次に
5. mt-DNA は修復能が低い
についてです。DNAというのは損傷を受けたらそれでもうダメかというと、
そんなことはなく、損傷を修復するシステムが存在します。しかし mt-DNA
の場合は核内DNAに比べて修復能力が低く、損傷に対して弱いのです。
次に
6. 加齢に伴って mt-DNA の 8-OHdG が増加する
についてです。8-OHdG というのは活性酸素によりDNA中のデオキシグアニン
が酸化されると生成する物質のことです。8-OHdG が増加するというのは酸化
損傷が増加していることを示すと考えられています。加齢に伴って mt-DNA
の 8-OHdG が増加しているというのは、加齢に伴って mt-DNA の損傷が進ん
でいることを示していると考えられています。
次に
7. 核のDNAよりも mt-DNA の方が 8-OHdG が多い
についてです。核内DNAよりもmt-DNAの方が損傷を受けていることの根拠と
言えます。
次に
8. 加齢に伴って mt-DNA の欠失や変異が増える
についてです。欠失というのは DNA配列の一部が無くなること、変異は変化
していまうことです。加齢に伴い mt-DNA の損傷が進んでいることを示して
います。
次に
9. ミトコンドリア内膜は不飽和脂肪酸に富んでいる
不飽和脂肪酸は活性酸素によって過酸化など変性されやすい
についてです。不飽和脂肪酸が多いミトコンドリア内膜は活性酸素によって
変性しやすいというわけです。
最後に
10. 活性酸素はミトコンドリアの転写を阻害する
についてです。転写というのは DNA から mRNA が作られる過程を言います。
mRNA からはタンパク質が作られますね。転写の阻害が意味するところは、
タンパク質生成の阻害です。つまり活性酸素によってミトコンドリアに必要
なタンパク質が作られにくくなることを意味します。」
「ぐ〜……ぐ〜……むにゃむにゃ。」
「ハル君、起きなさい。」
「ふぇ?あ、エリー先生、もちろん聞いてましたよ!」
「はぁ……説明がんばったんですけどね。」
「はい。エリー先生はがんばりました!そして僕は頑張って聞きました!途
中まで!でも僕には分かります。ようはミトコンドリアの損傷を抑制できれ
ば寿命を伸ばせる可能性があるってことです!」
骨折り損な気分ですが、それを分かっているのなら良しとしましょう。
│備考欄 (今日の要点)
└───────────────────────────────────
ミトコンドリアは常に活性酸素にさらされ、損傷を受けやすい。ミトコンド
リアの損傷が老化の原因の一つと考えられる。
●参考
活性酸素-ミトコンドリア老化説の根拠:井出利憲 編、『老化研究がわか
る』、p.72、羊土社(2002)
戻
る