エリーアンチエイジング研究室

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│研究日誌 エリー記す
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 第68日目 テロメアと老化
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 「エリー先生、テロメアってどこまで老化に関わっているのでしょうか?」

 テロメアはDNAの端にある特殊な塩基配列(DNA配列)です。細胞分裂するたび
 に短くなり、一定の長さまで短くなると細胞分裂が起こらなくなることから
 、細胞の分裂回数限界を決めていると考えられています。

 「それはもちろん、テロメアが短くなって細胞が分裂できなくなれば組織は
 少しずつ壊れていって、全体としては老化していく、という関係にあると思
 いますけど。ハル君だってそれくらいご存じでしょう?」

 「はい。でも死亡した時に細胞の分裂限界に達するほどテロメアが短くなっ
 ている場合ってないと聞きますよ?細胞分裂の限界に達する前に他の病気で
 死んでしまっているということだと思いますが、そうすると今はテロメアと
 老化の関係を考えるよりも、他の病気の克服方法を考えた方が良いのでしょ
 うか?」

 「ハル君のいう通り、今は細胞分裂限界を気にするよりも各種疾患の克服の
 方が寿命延長に寄与するかもしれません。しかしテロメアの短縮はそれとは
 別に注目するだけの意味はあります。一つ、念頭において頂きたいのは、テ
 ロメアの短縮は体全体で同じ速度で進んでいるわけではないということです
 。例えばハル君が転んで膝に擦り傷をつくったとします。するとその周辺の
 細胞は傷を修復するために細胞分裂して増え、傷口を新しい細胞で埋めます
 。この場合、傷だったところにある細胞は周りの細胞に比べて分裂回数が増
 えていますからテロメアも短くなっていますね?同じ箇所を何度もケガすれ
 ば、この繰り返しでどんどんその部位の細胞のテロメアは短くなっていきま
 す。死亡したヒトの細胞を全て調べたら分裂限界に達している細胞もあると
 思いますよ。」

 「あ、そうか。」

 「皮膚損傷の繰り返しよりも深刻なのが肝臓損傷ですね。慢性肝炎の場合は
 肝臓の細胞が損傷しては再生するということが繰り返されます。その結果肝
 細胞のテロメアはどんどん短くなってしまいます。実際、慢性肝炎患者の肝
 臓はテロメア長が分裂限界付近まで短縮しているケースもありますし。」

 「肝炎怖いです。」

 「そうですね。あ、もう一つお伝えしますと、テロメアが短くなると種々の
 サイトカインや生理活性ペプチドの産生・分泌も変化するのですよ。これら
 の物質は臓器の機能調節に大変重要な役割を持っていて、広い範囲に影響を
 及ぼしています。どうやらテロメアは分裂回数を決めているだけではなく、
 細胞の機能にも影響を与えるようですね。」

 「なるほど。やはりテロメアが短くなるのは問題みたいですね。」



│備考欄 (今日の要点)
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 テロメアは細胞分裂回数限界を規定している。

 テロメアの長さは細胞の機能に影響を及ぼしている可能性がある。



●参考
 テロメアについて:井出利憲 編、『老化研究がわかる』、p.40-47、羊土社
 (2002)

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